遠く幾重にも続く山並みを縫うように、霧がゆっくりと漂っていた。夜の闇が溶けて朝に変わる短いひととき。街明かりは蛍のように淡く、墨絵の世界にわずかな色を添える。時間を忘れ、寒さを忘れた。
「九十九谷(くじゅうくたに)」と呼ばれる南房総の丘陵地帯に立った。東京都心の大手町から「東京湾アクアライン」を使って約1時間の距離。千葉県君津市の鹿野山(標高379㍍)にある展望公園(標高344㍍)からの眺めは、これまでも多くのプロ・アマカメラマンの目を引きつけてきた。
東に清澄山(標高377㍍)、南に高宕山(標高315㍍)、西に鋸山(標高329㍍)…と、四方を大小さまざまな山並みが囲む。
雨上がりの寒い朝には雲海や霧が出ることがある。その白濁色に朝日のオレンジ色が混じると、化学反応するかのように色彩がはじけ、まぶしさが周囲を圧倒する。
ここを訪れた明治の文人、大町桂月(けいげつ)(明治2年~大正14年)は、「天下の奇観」と激賞した。
昭和を代表する日本画家、東山魁夷(かいい)(明治41年~平成11年)の出世作「残照」には、この風景から受けた感動が深く影響したといわれている。
撮影地で出会った元中学教諭で同県柏市に住む岡田博視さん(64)は、教え子が撮った写真を偶然雑誌で発見し、この風景に一目ぼれしたという。「雲が出るとここから離れられない。いつまでもいたくなる」とシャッターを切り続けた。
明治、大正、昭和を通して、多くの人たちの心を奪ってきた九十九谷の幻想絵図。平成19年の新春を迎えても、絵図は汚されることなく引き継がれていた。

明治時代から多くの人に愛されてきた南房総の九十九谷。霧と、早朝の淡い街明かりが作る墨絵の世界は、今も幻想的だ=千葉県君津市の「九十九谷公園」
【データ】キャノンEOS1DMarkⅡn、キャノンEF24-105mmF4L IS USM、1/30秒、絞りF5・6、ISO400、三脚使用

【データ】キャノンEOS1DMarkⅡn、キャノンEF24-105mmF4L IS USM、1/30秒、絞りF5・6、ISO400、三脚使用

【データ】キャノンEOS1DMarkⅡn、キャノンEF24-105mmF4L IS USM、1/15秒、絞りF5・6、ISO400、三脚使用

闇に沈んでいた山並みや草木は、夜明けとともに瞬く間にオレンジ色に染まった=千葉県君津市の「九十九谷公園」
【データ】キャノンEOS1DMarkⅡn、キャノンEF70-200mmF2・8L IS USM、1/500秒、絞りF11、ISO400

【データ】キャノンEOS1DMarkⅡn、キャノンEF24-105mmF4L IS USM、1/125秒、絞りF5・6、ISO400、三脚使用

【データ】キャノンEOS1DMarkⅡn、キャノンEF24-105mmF4L IS USM、1/250秒、絞りF8、ISO400、三脚使用


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産経新聞社3部門受賞